アクチノイド元素実験棟
Actinide Experiment Building

原子力発電に使用した燃料の中には多種多様なアクチノイド元素が含まれますが、その大部分は20世紀になって人類が作り出した元素です。アクチノイド元素は、磁性・超伝導・多様な酸化状態など、物理的・化学的に他の元素には見られない特徴を持つことが知られています。
誕生して間もない元素の学術研究は人間の知的要求に根ざし、新たな学問領域の開拓を目指すものです。本実験棟は、マクロ量のアクチノイド元素を扱える我が国唯一、かつ世界的にも珍しい大学共同利用センターです。安全性を十分に担保した上で、核燃料としてのアクチノイド元素の学理を探求するとともに、新しい材料研究の宝庫ともいえるアクチノイド研究が推進されています。
単結晶育成技術と試料評価
物性科学において新物質の開発は研究の要であり、その基盤となるのが純良な単結晶育成技術です。本実験棟では、核燃料物質であるウランやトリウムなどを用いたアクチノイド化合物を育成する装置が備えられています。
使用される装置例: |
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単結晶育成方法の例: |
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また、試料評価のための装置も設置されており、試料の育成から評価までを一貫して行うことが可能です。

ウラン化合物と物性物理研究
ウラン化合物は、エキゾチック超伝導、トポロジカル超伝導、多極子秩序など、非常に興味深く多彩な物性を示す材料です。本施設では、純良な単結晶を用いて、以下のような極限環境下での精密物性測定を行っています。
- - 極低温
- - 強磁場
- - 高圧
特に、ドハース・ファンアルフェン効果によるフェルミ面や重い電子状態の直接観測を通じて、磁場誘起超伝導、超伝導の多重相、高圧下の量子臨界現象等、電子状態の研究を行っています。

放射性廃棄物の低減と模擬燃料デブリの研究
原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物の体積低減は、持続的な原子力利用における重要課題です。特に以下の研究が進められています。
- - マイナーアクチノイド(MA)の核変換処理
(MA-Zr水素化物を高速炉のブランケット領域で照射) - - 福島第一原子力発電所の廃炉措置のための燃料デブリの物理的・化学的性質の解明
- - 共沈法を用いた模擬燃料デブリの作製(鉄を含む均一組成)
アクチノイドの化学研究と応用
最先端分析技術の開発と利用
当センターには2016年から誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)を導入し、RI、アクチノイドの分析に供するとともに、冬の学校、ICP-MS/MS実習等の人材育成にも利用している。ICP-MS/MSの分析下限は極めて低く、半減期100年以上の放射性物質については、放射線測定よりも高い精度で測定が可能である。
一例としてNp-237(半減期214万年)の場合、0.01 pptの濃度、放射能濃度としては0.3 μBq/mL(1年でα崩壊10回程度)の分析が可能である。
また、ICP-MS/MSは、分析対象元素を種々の反応ガス(例えば酸素や亜酸化窒素)と反応させて分析対象元素の測定質量(m/z)を変えて測定することができる。
従来のICP-MSでは困難であった同重元素の分析を、反応ガスとの反応性の違いを利用して、精度良く実施することができる。ICP-MS/MSを用いて、福島第一原子力発電所事故により発生した燃料デブリの分析技術、放射性廃棄物処理処分、海水からの有用元素の回収等の研究が実施されている。



アクチノイド元素実験棟装置













- GB-A
- ネプツニウム用グローブボックス(電気分解用)
- ネプツニウム用グローブボックス(熱分解用)
- マイクロカッター
- マッフル高温電気炉
- 横型高温管状炉
- 可視紫外・近赤外吸収分光装置
- 蛍光X線分析
- 縦型高温管状炉
- 小型冷凍機(高温用)
- 単結晶X線解析装置
- 低温用NMR測定装置
- 粉末X線解析装置(MiniFlex)
- α線スペクトロメーター